おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
第6章 信じたい私と人気俳優の彼
 結局、年末休暇まで、先輩二人の好奇心丸出しの視線に耐えることになってしまった。あえて聞いてこないところが、大人な二人なのだが、感謝すべきなんだろうが、なにぶん……視線が痛い。休みに入ったおかげで、なんとか乗り越えられた、という感じ。
 マンションの部屋の大掃除を終えて、さっさと実家に戻った私を手ぐすねひいて待っていたのは、こたつから顔だけだしてる小悪魔一馬だった。

「おかえり~」
「なんでいんの?」

 自分の目が三白眼になってる自覚あり。

「えー、ひどーい。お姉さんなんだから、もう少し優しくしてくださーい」
「……はぁ」
「ねぇ、ねぇ、最近は会ってるの? っていうか、会えてるの?」

 まったく。こいつは噂好きのミーハー女子か。

「L〇NEで連絡はとりあってるけど」
「それだけ?」
「それだけっ!」
「なんだそれ。あいつ、意気地なしだなぁ。」

 ……はぁ。仕方ないでしょうが。遼ちゃんも私も忙しいんだからっ。
 お前は芸能レポーターかっ! というくらい、へばりついてくる一馬をひっぺがしてくれたのは、やっぱり兄ちゃんだった。

「ただいま~」

 両親の『今年もお嫁さん候補は連れてこなかったか』という、残念な空気とは裏腹に、一馬と映画の話で盛り上がる兄ちゃん。

「そういや、遼ちゃんの出てる映画、お正月早々にあるんじゃなかったっけ?」
「へぇ」

 眉をぴくっと動かす兄ちゃん。

「ねぇねぇ、見に行かない?」
「なんで」
「いいじゃーん、美輪のか……フグッ……モゴモゴ」

 兄ちゃんの大きな手が一馬の顔のほとんどをうめた。

「余計なこと言わない」

 冷たい視線が一馬を見下ろす。

「あれ恋愛モノでしょ。男二人で行くって、恥ずかしくないの?」
「何言ってんだよ。だから美輪も一緒に行くんだって」

 呆れ顔で一馬に言うと、なんとか兄ちゃんの掌から脱出し、逆に呆れ顔をされる始末。

 ――恋愛モノに出てる遼ちゃん

 正直、今まで彼の出ている作品でまともに見たのは、あのエキストラで参加した作品だけ。どうしても、登場人物に感情移入できずに、遼ちゃんが女優さんたちに手をふれたり、抱きしめたり、キスしたりしている姿が、見ていて辛くなってしまうから。

「無理、無理、無理~!」

 顔をひきつらせ、全否定。兄ちゃんに羽交い絞めされて、のたうちまわる一馬を放置して、部屋に逃げ込んだ。

 すごく心が狭いと、自分でも思う。あれはお芝居で、本気じゃないんだってわかっていても無理。遼ちゃんが、私以外の女の人と……と思うと、きゅうっと胸が痛くなる。ああいう仕事をしてるんだもの、独占なんてできっこないのに。その行為には、遼ちゃんの『愛』はない、とは思うけど、役柄の『愛』はあるって思える。
 こんなこと考えている自分が、自分でもめんどくさいと思う。遼ちゃんは『信じて』と言ってるのに、こういうこと考えちゃうから、遼ちゃんの出演作品は見たくないのだ。

「美輪~!」

 部屋の外から、一馬の甘えた声。

「何」
「大晦日って、予定ある~?」
「ないけど。悪い?」

 こんなキツイ言い方、ちょっと大人げないか。

「もう~!大晦日に年越しのカウントダウンパーティーあるんだけど、一緒に行かないかなぁって、思ってさ」
「友達と一緒にいけばいいじゃん」
「なんか知らないけど、今年はみんな予定あるっぽくて」
「……すみませんね。暇人で。」
「はっはっはっは」

 笑いごとじゃないっつーの。

「ていうか、彼女とかいないの?」
「……いない。」

 えっ!?意外だ。このイケメン一馬くんにいないって、どういうこと。思わず、部屋のドアをあけて、しげしげと見てしまう。

「なんだよ」
「いや、私のこと、どうこう言ってる場合じゃないだろ」
「もうっ。ガールフレンドはいっぱいいるよ。特定の誰かってのがいないだけ。ご心配なく~」

 人が心配してあげてるのに、生意気だ。

「じゃあ、そのガールフレンド誘っていけばいいじゃん」
「ったく、鈍いなぁ。わざわざ美輪誘ってるのは、遼ちゃんもくるかもしれないからじゃんっ!」

 一馬のその言葉に、私は息をのんで固まってしまった。
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