おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 ニューヨークまでの空の旅は、完全に睡眠時間と化していた。
 寝ぼけた状態で、空港に降り立った。

「……やっぱ、寒い」

 遼ちゃんを待つか。
 昔見た空港を舞台にした映画を思い出した。空港に閉じ込められるやつ。
 このまま、遼ちゃんに会えずに帰ることになったりして、なんて思っていたら。

「美輪っ」

 懐かしい声がした。
 人の流れの中から見えた遼ちゃんは、少し髪が伸びて、大人っぽくなっていた。
 笑顔が、私の心臓をギュッと掴んだ。

「り、遼ちゃんっ!」

 キャリーバックをゴロゴロと引きずりながら、駆け寄ろうとするんだけど、人の波が邪魔をする。
 目の前に遼ちゃんの手が伸びて来て、私を捉えて抱き寄せた。

「美輪、久しぶり」
「ん」
「会いたかった」
「ん」

 ぎゅっと抱きしめられて、思わず涙がこぼれた。

 ――私、やっぱり、寂しかったんだ。

 遼ちゃんに抱きしめられて、実感して、私もぎゅっと抱きしめ返した。

「本当に会いたかったっよ……だから、会いに来ちゃった」

 見上げた私の瞳をじっと見つめて、優しく微笑んだ彼。
 もう我慢できなくて、少し背伸びして、彼にキスをした。
 いつもの私らしくなかったかもしれない。
 目を大きく見開いた遼ちゃんが、顔を真っ赤にして見下ろしてる。

「嫌だった?」

 涙目の私を見つめる彼が、すごく愛しそうに私の頬をなでる。

「そんなわけない。驚いて……すごく嬉しい」

 そういって、今度は遼ちゃんからキスをくれた。私の身体の奥の方の、燻った熾火を煽るような、甘くて深いキス。

『……で、いつまでキスしてんのよ』

!?

 遼ちゃんの背後から、女性の英語の声が聞こえた。
 慌てて身体を離そうとしたけれど、遼ちゃんは力を込めて離してくれない。おかげで、相手の姿も確認できない!

『あー、わざわざ車出してやったんだから、ちゃんと紹介してよね』
『もう少し、抱かせろよ』
『後でたっぷり抱けばいいでしょ』

 なんだか、仲が良さそうに聞こえる。

「遼ちゃん、誰と話してるの?」
「学校の友達」
「……ガールフレンド?」
「違うっ!」

 ばっと身体を離した隙に、彼の背後にいるはずの女性の姿が見えた。

 わっ!? 大きい。

 すらっと長い脚が、黒のパンツで細さが強調されて、外はすでに暗いのにサングラスをかけた彼女は、迫力のある黒人女性だった。

「Hi~♪」

 ぷっくりした唇の口角をキュッとあげてみせた彼女は、とても魅力的だった。

「は、は~い!」

 どうしても、日本語英語しか出てこない私。

「彼女は、同じアパートメントに暮らしてるアリシア。大学も同じなんだよ。今日は授業終わってから、彼女に車出してもらったんだ」
『何言ってるかわかんないんだけど。』
『お前のこと説明してるんだよ』

 ニコニコしながら近づいてきたアリシア。

『彼女が奥さん?』
『そう』
「カワイイ~」
「えっ!?」

 黒人女性から、日本語の"カワイイ"が出てくるとは思わなかった。
 というか、カワイイなんて言われ慣れてないから、恥ずかしくなる。

「さ、さんきゅう~」

 な、なんとか笑顔は作れたと思う。

「美輪、ホテルは予約してるの?」
「うん。もし、遼ちゃんと会えなかったらって思って」
「そっか。じゃあ、まずはチェックインしよう。で、僕も泊まっていい?」

 ニヤニヤしながら見つめる遼ちゃん。
 ……いやらしいことしか考えてなさそうな顔に見えるんだけど。

『遼、顔が変』
『うるせー』

 英語わからなくても、なんとなくわかるとか思った。

『明日の予定は?』

 あ、なんか、私でも何を言ってるか、わかった。

「明日は、夕方には帰ります。」
「えっ! そんな早いの? もっと遅い便だってあるじゃん」

 目を見開いて、驚く遼ちゃん。

「だって……今回は会えるかわからなかったから」

 申し訳なさそうに、見上げると、顔を真っ赤にして目をそらす遼ちゃん。

「……? どうかした?」
「あ、いや」
『クスッ。何サカッてんのよ』
『黙ってろって』
『はーい』

 ……やっぱり仲がいい。
 言ってる事、わかんないけど、すごく仲がいいのはわかる。
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