おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 寺沢さんが車から出て、小一時間ほどたったころ、外が騒がしくなった。
 後部座席の窓のスモークガラス越しに、少しずつ人の塊が移動してきているのがわかる。その先頭に立ってるのが、荷物を持った寺沢さんと、遼ちゃんだ。
 彼らの後ろには、マスコミ関係なのか、スーツを着た男女や、カメラを持った人がいる。
 私は慌てて、バンの後ろの方の座席に移動して、ドアが開いても見えそうにない場所に隠れた。

 ダンッ!

 勢いよく後ろのドアが開いて、荷物を載せる寺沢さん。
 うわ、まさか、そっちが開くとは思わなかった。慌てて、身を伏せる。
 座席の方のドアも開いて、無言で乗り込んできたのは遼ちゃんで、顔つきが固いせいか、一年前に比べて、少し精悍になったような気がする。
 マイクを差し込んでこようとした取材陣を無視して、遼ちゃんはドアを無理やり閉じた。

「はぁぁぁっ」

 遼ちゃんの疲れたような大きなため息。

「なんなんだよ。まさか、こんなにいると思わなかったよ」

 ボソッと呟いて、頭を抱え込む遼ちゃん。
 運転席に回り込んだ寺沢さんは、無言で車を発進させた。

「寺沢さん、まっすぐ美輪の実家だよね」
「ああ。でも、その前に」
「あ?」
「後ろ」
「後ろ? 何……っ!?」

 しかめっ面の遼ちゃんが振り向いた。バッチリ目が合う。

「よっ」

 思わず右手をあげて、挨拶してしまった。

「み、美輪っ!?」

 イケメンが台無しになるような驚いた顔。
 やばい。面白すぎる。

「うん。お帰り」
「た、ただいま」
「で。これ、碧」

 ママコートから、少しだけ顔をのぞかせた碧は、眠そうな顔をしたまま、遼ちゃんのほうを見た。けっこう煩かったはずなのに、泣きもしなかった我が娘。けっこう図太い神経の持ち主かもしれない。

「う、うわ~っ」

 今度は、デレデレな顔。これ、ファンが見たら減滅されちゃわないだろうか?

「寺沢さんっ、なんで言ってくれなかったの!」
「あの状況じゃ、言えないでしょうが」

 車は移動中だったのに、遼ちゃんはわざわざ私の隣に移ってきた。
 ママコートの端を下して、碧の顔を見ようとする。

「か、かわいい。それとこの甘い匂いは、ミルクの匂い?」
「碧~、パパが帰ってきたよ。お帰り~って」

 不思議そうに遼ちゃんを見つめる碧に、顔を真っ赤にして見つめる遼ちゃん。さっきまでの渋い顔はどこえやら、である。

「早く抱っこしたい……」
「ダメ。うちについたらね。移動中は危ないから」
「うん」
 
 少し残念そうな顔をするから、思わず頬にキスをした。

「本当におかえりなさい」

 私の言葉に、遼ちゃんは少し照れたような、嬉しそうな顔で微笑んだ。
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