婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました

王都追放

「アレクシア・アークライト侯爵令嬢。今この時を以てそなたとの婚約を解消する！」

オールディス王国宮殿の一室で声高に宣言したのは、黄金の髪と瞳の見目麗しい王太子イライアス。
彼の言葉を受けたアレクシアは、静かに目を伏せて承諾の返事をしようとした。しかし。

「そしてそなたにはブラックウェル公爵との婚姻を命ずる。これは王命である」

続いた言葉に驚きの声を上げそうになった。なんとか堪えたものの、青天の霹(へき)靂(れき)である王命に動揺を隠しきれない。

（婚約解消は覚悟していたけど、婚姻とはどいういうことなの？　しかもブラックウェル公爵様と言えば、あの悪名高い……）

国内最大規模の領地を持つ大貴族で、生母は現王の妹という尊い血筋の公爵。

名をメイナードと言い、年齢は王太子のふたつ上の二十四歳。

王国随一の魔力の持ち主で、十年前の隣国との戦では初陣でありながら華々しい功績を残し、一時は救国の英雄とまで言われていた。

しかし終戦直後、彼は原因不明の病に侵された。

体中が激しい痛みに冒され寝たきりになり、高名な魔術師や名医が力を尽くしても癒せない。病はさらに悪化を続け、不気味な痣が体中に浮かび上がり、直視するのも憚(はばか)られる有様になったそうだ。