婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「なにをおっしゃる。国内最大のブラックウェル公爵家の当主で母親は元王女。年齢の兼ね合いもなかなかいい。アレクシア嬢にとってこれ以上の良縁はないと思いますが」

メイナードは大きなため溜息を吐き、手にしていた羽ペンを放った。

「ふざけているのか? 俺と結婚したがる令嬢などいる訳がないだろう」

身分や地位、財産がどれほどあったとしても、それを上回る瑕(か)疵(し)があるとメイナードは自覚していた。

彼の体と顔の大部分に刻まれた禍(まが)々(まが)しい紋様が主な原因だ。十年前に発現したこれは、今も変わらずメイナードの心身を蝕んでいる。

「王都の貴族は俺を呪われた公爵と呼んでいるそうだな。アークライト家の令嬢が知らないわけがないだろう。この話はこちらから断れ」

そもそもメイナードは、誰が相手だろうと結婚するつもりはない。生涯独身を貫くつもりでいた。
それが相手と自分のためだからだ。

しかしルーサーは「それは無理ですね」とあっさり答える。

「王命ですから」

「……国王が承認したのか?」

メイナードは黄金の瞳を見開いた。

信じられなかった。王家の人間はメイナードの体に刻まれた紋様の存在を知っている。

噂などではなく、真実変わり果てた姿になってしまったのだと。

愕然とする主君の姿に、ルーサーはどこか気まずそうに眉を下げた。
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