婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
黒い文字が蔦のように連なる途中で一旦途切れている。アレクシアは柄の変化に感じたが、正確にはまるまる一部の文字が消えているのだそうだ。

メイナードは明らかに戸惑っていた。

「空白はあるが、元々どうだったか覚えていない。自分の体をまじまじ見たりはしないからな」

変化をどう説明しようかと悩んでいたところ、ルーサーが平然と答える。

「そうですか。それなら気付いていないと思いますが、メイナード様の体に刻まれた模様にはある一定の法則があるんです。よく見ると同じ柄の繰り返しなんですが、明らかにここだけ途切れています」

根拠のある説明に、メイナードも疑う気はなくなったようだ。

「そうか」と呟き、落ち着かないように視線を下に向ける。

「だが……なぜ消えたんだ? 今まで広がることはあっても、消えたことなどないというのに」

メイナードが不審に感じるのは当然だ。

なにしろ高名な医師や司祭の誰も、消すことのできないものなのだから。

(消えた理由をなんとかして解明したい。そうしたらほかの部分も消せるかもしれないのだから)

メイナードも同じ気持ちなのだろうか。顔にわずかながら焦りが見える。

そんな中、ルーサーがまたはっきり言い切った。

「俺は、アレクシア様が関係していると思いますよ」

「え、私?」

あまりに思いがけない言葉だった。
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