婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「そうだが、オーレリアのためなら放棄していい。黄金宮でふたりきりで過ごそう。きっと楽しいはずだ」

うきうきと語るイライアスは、そのときオーレリアの顔を見ていなかった。

幸せで舞い上がり、勧められるままに酒を飲んだ。そしていつの間にか眠りに落ちていた。


「う……ここは?」

目を開けたとき、辺りは薄暗かった。体が怠くて億劫だったが、上半身を起こして辺りの様子を窺う。

どうやら夫婦の寝室のベッドで眠っているようだった。

「オーレリアはどこだ?」

たしかふたりでワインを飲んで楽しく話していて……その後の記憶があやふやになっている。

呼び出しベルが見当たらず、イライアスは仕方なく自ら燭台に火を点けた。

オールディス王家の人間は炎の魔力があるので、容易いことだ。

部屋は明るくなったものの、体のだるさは治まらない。

そのとき、ずきんと激しい痛みが体を襲った。

「くぅ!」

経験したことのない痛み。混乱しながらも、とくに痛みのひどい腕を見る。

知らない間に傷を負ったのかと考えたのだ。

けれど、イライアスの視界に入ったのは予想外のものだった。

「な、なんだこれは!」

イライアスは悲鳴のような叫びをあげた。

その声が聞こえたのか、「イライアス様?」と高い声と同時に扉が開き、オーレリアが飛び込んできた。

「どうしたのですか?」

「い、いや、なんでもない、来るな!」
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