婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
召喚命令
「メイナード様、どうぞ」
アレクシアは、楽な室内着姿で寛ぐ夫に、ちょうどいいい温度で淹れたコーヒーのカップを差し出した。
「アレクシア、ありがとう」
メイナードは微笑み、カップを受け取る。
ここはサザラント城、城主の私室。
旦那様から名前呼びに変わってからしばらくして、アレクシアはメイナードの私室に出入りをするようになった。
眠る前の一時、その日あったことなどをお互い報告しあうのだ。
とくになにもなかった日は、子供の頃の思い出などお互い思いついた話題を口にする。
要はただのおしゃべりなのだが、アレクシアはこの時間を毎日とても楽しみにしていた。
「お顔の文字はほとんど、消えましたね」
ふと会話が途切れると、アレクシアはメイナードの顔を見つめながら言った。
初めて見たときは、黒い文字で覆われていた彼の顔は、今は白く滑らかなものになっていた。
漆黒の髪に、高貴な黄金の瞳。凛々しい眉とすっと通った高い鼻。薄すぎず厚すぎない絶妙な口元。
改めて見る夫の美貌に、アレクシアは度々心の中で感嘆の溜息を吐いている。