婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
勝手な理由で追放したイライアスに怒りを覚えたときもあったが、目まぐるしく過ぎる毎日や、メイナードを始めとしたサザラント城の人々との幸せな暮らしで、すっかり存在が霞んでいたのだ。

「メイナード様と王太子殿下は従兄弟同士でしたね。ふたりの間になにかあったのですか?」

仲がよくないだろうとは、なんとなく気づいていた。

メイナードの口からもイライアスの名前は出たことはないし、確信したのは数日前に行われた王太子の婚儀の招待を断ったときだ。

たしかに魔獣の活動が活発にはなってはいるが、ルーサーの転移の魔法があるのだから、行けなくはない。

体の方はまだまだ残っているものの、顔の文様はほとんど消えているのだ。堂々と儀式に出席できる。

それなのに、悩む様子もなくあっさりと行かないと決断した。

少なくとも血縁としての親しみはなさそうだ。

「とくになにかがあったわけではないが、あいつとは馬が合わないようで、子供の頃からなにかと目の敵にされている」

「そうなんですか……」

メイナードは人との間に壁を作っており一見冷たい雰囲気だが、心は温かい人だと思う。

イライアスと顔を合わせた頃は、もっと親しみを持てる人物だっただろうと想像できる。

いったい彼のなにが気に入らなかったのだろう。

(分からない……でも王太子殿下が誰かを嫌うのに、理由なんてないのかもしれない)
< 138 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop