婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「まあまあ、これからきちんと報告しますから、そんなにかりかりしないで下さいよ」

宥められたメイナードはしぶしぶだが執務机の椅子から立ち上がり、ソファーに移動した。

ふざけたところがあり、貴族に仕えるにしては口が悪いルーサーだが、メイナードは彼を信頼していた。

素顔を見せることができる、孤独なメイナードにとってはかけがえのない数少ない存在。

「どうですか?」

ひと口飲んだ途端にルーサーに問われた。

「たしかに好みだ」

「そうでしょう! 明日から休憩時間のお茶はこれにしましょう」

「ああ……」

「さて、それでは報告に入ります」

それまでより硬い声音で告げたルーサーの表情が、明らかに曇った。

あまりよくない報告だと察し、メイナードは身構える。

「今回の結婚について、アークライト侯爵家は異議を申し立てる気がないようです。すでに輿入れ準備を進めていました。恐らく十日もせずに支度が整うでしょう」

「十日?」

メイナードは目を見開いた。高位貴族の令嬢の嫁入り支度は、何年も前から行うものだと聞いている。

十日ではろくな支度ができないだろう。

「最低限の荷物で、お供も少数みたいですね。少し聞き込みをしましたが、アークライト侯爵はどうやら娘を大切に思っていないようです」

「では……アレクシア嬢は、王家と父親から結婚を強要され断れない状況だということか」
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