婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「なんだか様子が変ですね。公爵閣下とのお話でなにかありましたか?」

ディナは心配性なので、まあいいかと流すことをしない。

「本当になんでもないの。メイナード様とは、今夜は珍しく王太子殿下の話をしたわ」

「王太子殿下ですか?」

ディナの顔色が一気に曇った。

「あんな人、話題に出す必要なんてないのに」

王宮の人間が聞いていたら、確実に不敬罪に問われそうなことを、ディナはあっさり言う。

「ディナ……それ、みんながいるところで言ったら駄目よ?」

「それはもちろん分かってます。でもアレクシア様にひどい扱いをした王太子を崇めるなんてしたくありません」

「気持ちは嬉しいけど、もし王太子殿下の部下に聞かれでもしたら、ただじゃすまないから」

メイナードも刺激したくないと言っていたくらいだ。油断してはいけない。

「権力者が性格悪いって、周りは悲劇です」

ディナは口をとがらせ言う。

実はアレクシアも同じ気持ちだけれど、同意したら悪口でも盛り上がってしまいそうだ。

「そうだ。先ほどルーサー様がこちらをお持ちになりました。ルイ様からの便りです」

「え、この前来たばかりなのに?」

弟からの手紙なら毎日届いても大歓迎だ。白い封筒とペーパーナイフをディナから受け取り、ウキウキしながら開封する。

余程急いで書いたのか、いつも流麗なルイの文字が乱れており、アレクシアは眉をひそめながら手紙に目を通す。
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