婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「まさか。アークライト侯爵家の知人にアレクシア嬢の姿絵が見たいと言ったらくれたんです。去年の誕生日に描かれたものだそうですよ。王太子の元婚約者なので多くの姿絵があるものの侯爵邸では適当に保管されているのだとか。おかげで楽に手に入りました」

知人と言っているがおそらくメイドあたりに金でも掴ませたのだろう。

(それにしても、主家の令嬢の姿絵を売るなんて、とんでもないメイドだな)

アレクシアの生活環境はあまりよくなかったようだ。

メイナードはルーサーが掲げる絵を真っすぐ見た。

美しい女性だった。イライアスより幾分淡い色味の金髪は、柔らかく波うち白い肌に映えている。瞳は晴れた日の空のような明るい青。

水色のドレスを纏い椅子に座る姿は儚げで、メイナードの心の奥のなにかを揺さぶった。

(彼女が……俺に嫁いでくる)

気付けば魅入っていた。このままずっと眺めていたいと思う。

しかしルーサーはあっさりと絵を彼の倉庫に戻してしまった。

「おとなしくて優しそうな令嬢でしょう? ですが社交界でも民の間でも彼女の評判はよくないものばかりでした」

「よくないってどういう評判なんだ?」

「王太子の想い人に嫉妬して犯罪まがいの嫌がらせをする悪人とか、身分を笠に威張り散らしているとか、いろいろです」

メイナードは思わず顔をしかめた。
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