婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
強い怒りが滲む視線がメイナードに向けられ、アレクシアの心臓はドクンドクンと煩く脈打つ。

予想もしていなかった展開にひどく混乱していた。

不安のあまり、メイナードの腕を掴んでいた。彼はアレクシアの不安に気づいたのか、安心させるように微笑んでくれた。

その表情が、この場の張り詰めた雰囲気とは対極の余裕に溢れていて、ほんの少しだけ冷静さを取り戻せた。

(もしかしたら、先ほど言っていた“驚くこと”とはこの状況なの? 大丈夫だって言っていたけれど……)

もちろんメイナードを信用している。それでも心配ではらはらする。

「証拠ならある。今お見せしよう」

メイナードは不敵に笑う。するとまるでこの場を見ていたようなタイミングで、扉が開いた。

「誰? 人払いをしているはずよ?」

オーレリアが不満そうに言う。しかし扉を開けた人物は堂々と入ってきた。

「入室の許可は、王妃陛下から頂いていますので」

「え、ルーサー?」

アレクシアは目を丸くした。そこに現れたのはブラックウェル領に残ったはずのルーサーだったのだ。

「ど、どうして?」

唖然とするアレクシアの手をメイナードが掴み、耳元で囁いた。

「大丈夫だ。すぐ終わる」

今起きているのは予定通りの出来事のようで、メイナードはまるで慌てていない。

アレクシアは戸惑いながらも、成り行きを見守るしかなかった。
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