婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
婚儀
アークライト侯爵は予想通り理不尽な王命に異を唱えることはなく、アレクシアの急な輿入れの準備を進めた。

十日後には住み慣れた屋敷を出て、遥か南方のブラックウェル公爵領に旅立つ準備が整った。

大貴族間の婚姻には到底見えない簡素な支度で、アレクシアの装いも既製品の地味な紺のドレス。
見送りはルイと親しくしていた使用人の数人のみだったが、惜しまれての旅立ちに寂しさがこみ上げ涙が零れた。

それでも、王都を抜けた頃には冷静さを取り戻していた。

(いつまでも泣いてはいられない)

これから呪われ公爵の下に向かうのだ。気を引き締めなくては。

「お嬢様」

心の中で自分を鼓舞していると、馬車に同乗していた侍女のディナ・マレットがおずおずと呼びかけてきた。

不安そうな表情の彼女は分家の男爵家の四女。臆病で弱気な性格が難点だが、手先が器用で化粧と髪結いの技術はほかの誰よりも優れていた。

五年前にアレクシアの専属侍女に抜擢されたのだが、そのせいで今回の追放にも付き合うはめになってしまった。

「ディナ、あなたまで巻き込んでごめんなさい」

アレクシアの言葉に、ディナは驚きの表情を浮かべた。

「なにを言うのですか! 私がアレクシア様の嫁ぎ先についていくのは当然です」

「でも顔色が悪いわ。不安なんでしょう?」
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