婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
複数の足音がアレクシアの耳にもはっきり聞こえてすぐに、下に向けた視線の端に黒いブーツが映り込んだ。
(公爵様だわ)
アレクシアは、目上の相手に対する挨拶の頭を下げた格好のまま口を開く。
「アークライト侯爵家の長女、アレクシアでございます。ブラックウェル公爵閣下自らお出迎えくださり、光栄でございます」
「……顔を上げてくれ」
少しの間のあとに低い声が耳に届いた。想像していたものとはまるで違う落ち着きのある美声は、世間で言われているような、恐ろしい人のものとは思えなかった。
(やっぱり噂を信じてはいけないわ)
少しほっとして顔を上げたアレクシアは、しかし公爵の出で立ちを見て身体を強張らせた。
公爵は詰襟の黒い騎士服を纏い、さらに黒い手袋と銀の仮面をつけていた。徹底して肌を隠した格好だ。うしろでひとつに束ねた少し長めの髪の色も漆黒。
アレクシアを見下ろす長身に加え、一切の表情が見えないためか、強い威圧を感じた。
「メイナード・ブラックウェルだ。長旅で疲れただろう。婚礼の儀までは時間があるから、それまで体を休めるといい」
姿の強烈さに比べて、発する言葉は穏やかだった。
アレクシアは強張る顔になんとか笑みを浮かべて答える。
「お気遣いに感謝いたします」
メイナードはわずかに頷く。すると彼の背後に控えていた青年が一歩前に進み出た。
(公爵様だわ)
アレクシアは、目上の相手に対する挨拶の頭を下げた格好のまま口を開く。
「アークライト侯爵家の長女、アレクシアでございます。ブラックウェル公爵閣下自らお出迎えくださり、光栄でございます」
「……顔を上げてくれ」
少しの間のあとに低い声が耳に届いた。想像していたものとはまるで違う落ち着きのある美声は、世間で言われているような、恐ろしい人のものとは思えなかった。
(やっぱり噂を信じてはいけないわ)
少しほっとして顔を上げたアレクシアは、しかし公爵の出で立ちを見て身体を強張らせた。
公爵は詰襟の黒い騎士服を纏い、さらに黒い手袋と銀の仮面をつけていた。徹底して肌を隠した格好だ。うしろでひとつに束ねた少し長めの髪の色も漆黒。
アレクシアを見下ろす長身に加え、一切の表情が見えないためか、強い威圧を感じた。
「メイナード・ブラックウェルだ。長旅で疲れただろう。婚礼の儀までは時間があるから、それまで体を休めるといい」
姿の強烈さに比べて、発する言葉は穏やかだった。
アレクシアは強張る顔になんとか笑みを浮かべて答える。
「お気遣いに感謝いたします」
メイナードはわずかに頷く。すると彼の背後に控えていた青年が一歩前に進み出た。