婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「こちらから先が公爵家の方の居住区です。アレクシア様の部屋は三階の南側となっております」

ルーサーは三階の廊下を進み突き当りの両開きの前で立ち止まると、扉をゆっくりと開いた。

すると華美さとは無縁の石城からは想像できないような、可愛らしい部屋が視界に飛び込んで来た。
扉のすぐ先は居間だった。
壁は温かみのあるクリーム色で設えられた家具には見覚えがある。多分、最近王都で流行している懐古主義の作家の手によるものだ。

上品でどことなく懐かしい感じがする、アレクシアの好みに合うものだった。

「後ほど私の部下が挨拶に参ります。なにか不足がありましたらその際にお申しつけください」

「分かりました」

「では、私はこれにて失礼いたします」

ルーサーは恭しく礼をすると、去っていった。

ディナとふたりきりになると、アレクシアはほっと息を吐いて、部屋の中央に設えられたソファーに腰を下ろした。

かなり緊張していたのだ。

「アレクシア様、お茶の用意ができそうです。お淹れしましょうか?」

「お願いするわ。もちろんあなたの分もね」

お茶を淹れ終えたディナにも座るように言い、疲れを癒すようにゆっくりと温かいお茶を飲んだ。

「やはりアークライト侯爵邸とは雰囲気が違いますね。この城には騎士ばかりで、貴族や侍女が見当たりません」
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