婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
自室に戻る途中、嫌な予感に苛まれていた。

(鳥型の魔獣もグリュプスも、これまでとは違う行動をしている)

なにかがおかしい。

しかしいくら考えても、原因は思い浮かばない。

私室に入りひとりきりになると、さすがに疲れを感じ始めた。

砦の滞在中、まともに眠っていないのだから無理もない。

メイナードは浴室で体の汚れを落としてから、ベッドに横たわった。

すぐに瞼が重くなり、抗いがたい睡魔が襲ってきた――。



メイナードの母イザベラがほとんどの時間をベッドで過ごすようになって、一年以上が過ぎていた。

だから戦に出るために側を離れるとき、次に会うことが叶うのかと不安で仕方がなかった。

敵兵と命をかけた戦いをしているときよりも、母がいなくなってしまうと考える方が恐ろしかった。

前線に出て一年と少し。ようやくサザラント城に帰還したメイナードは、真っ先に母の部屋に向かった。

母は城で一番日当たりのいい居心地の良い自室で、その日も横になっていた。

『母上、ただいま戻りました』

枕元に近づき声をかけると、閉じていた目を開く。黄金の瞳がメイナードを見つめ、柔らかく微笑んだ。

『お帰りなさい、メイナード。無事で本当によかったわ』

『はい。御覧の通り傷ひとつありません。母上のくださった御守りのおかげです』

そう答えると、母は嬉しそうに目を細めた。
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