婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
『あなたが優秀だからよ。でも体は無事でも心は疲れているはずよ、しばらくはゆっくり休みなさい』

『はい』

母は常にひとり息子のメイナードの身を案じていたが、自身の体は日々弱っていくばかりだった。
真っ白な肌には、不気味な黒い紋様が浮かんでいる。

(前よりも濃くなっているな)

残酷な現実に、メイナードは唇をかみしめた。

母は王家の姫であったが、公爵である父に嫁いでくるよりも前から体に奇妙な紋様があったそうだ。

その頃は背中の一部にあるだけだったが、些細な傷でも身分の高い令嬢の縁談には響く。

王女でありながら、嫁ぎ先がなかなか決まらなかった母に熱心に求婚したのが、父だった。

ブラックウェル公爵家は、最高の爵位と最大の領地と資産を持つ大貴族である。

しかしそれまで王族が嫁いできたことはなかった。

それはブラックウェル家の特殊な役割ゆえだった。

魔物が生まれる発生源の間の森を見張り、出て来た魔物から王家を守る盾。それがブラックウェル家の生業だ。

誰もが敬遠する非情に危険な役割ゆえに、最高の爵位を与えられたのだ。

だから、どんなに高い地位や身分を得られると分かっていても、大切な王女の嫁ぎ先にしたいと思う王はいなかった。

もし母に痣がなければ、父との結婚は許されなかっただろう。
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