婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
結婚相手として敬遠された者同士が夫婦になった。

社交界ではそんな口さがない言葉を囁かれながらも、両親はお互いを慈しみ、結婚一年後にはメイナードが生まれ、家族三人と信頼のおける家臣に恵まれ幸せに過ごしていた。

しかし――数年前から母の様子がおかしくなった。

常に体調が優れず寝込みがちになった。一度寝込むとなかなか起き上がれず、父は高名な医師を呼び寄せ治療に当たらせたが、原因が判明しない。

日に日にやつれていく母が心配で、不安な日々を送っていたが、そのうちおかしなものに気がついた。

母の顔に黒い痣がぽつりとできたのだ。それが少しずつ大きくなり、今ではなにかの文字のように複雑な柄となり顔を覆っている。

母を知らない者なら逃げ出すような禍々しいものだった。

家臣の中には、魔獣の呪いだと言い出すものもいた。

大量の魔獣を殺してきた、ブラックウェル公爵家にかかった呪いだと。

父は学者や神官などあらゆる伝手を使って呼び寄せ治療に当たらせた。

けれど、原因は分からないまま。

その内母は表に出ずに、メイナードが王命で隣国との戦に駆り出される頃には、部屋で寝た切りになっていった。
< 67 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop