婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
『母上。王都でどんな病でも治すという医師の噂を聞きました。なんとしてでもここに連れてきますので、あとしばらく辛抱してください』
『メイナード、ありがとう。でも無理をしないで。私のことはもういいのよ』
母が微笑みながら言う。その様子があまりに儚くてメイナードは母の手を握り、力強い声を出す。
『無理なんてしていません! 王都では多くの人々との繋がりができました。親しくもなりました。医師の紹介を頼むのなんて簡単です』
実際戦で活躍をしたメイナードは、王都の人々に熱狂的に迎えられた。
平民から貴族まで、メイナードに憧憬の眼差しを向けてきたし、中には娘を娶ってほしいと言い出す貴族もいた。
(味方になってくれる人は大勢いる)
メイナードはそのときは本気でそう思っていた。
しかし、医師を呼ぶ直前に、母の容体は急変した。
弱りながらも容態は安定していたはずなのに、なぜ。
間の森から父が急ぎ帰還した頃には母は虫の息で、嘆く父とメイナードに感謝と別れの言葉を継げると力尽きるようにその人生を終えた。
母の体は、まるで闇に呑まれるように、漆黒の模様でおおわれていた。
葬儀を終えて数日後。信じられないことが起こった。
メイナードの腕に、母の顔にあったものと似たような黒いなにかが浮かび上がったのだ。
見つけたとき、背筋が凍るような衝撃が襲ってきた。
父も驚愕したが、治す方法があるのならとっくに母は元気になっている。きっともうどうしようもないのだ。