婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
黒いものはやがて顔にも浮かび、初陣ですら怯むことのなかったメイナードを戦慄させた。

堪り兼ねて城を飛び出し王都に向かった。

なんでも直すと言う医師に縋ろうとしたのだ。

休まず馬を飛ばし、以前医師の紹介を請け負ってくれた貴族の下に向かう。

娘をもらってほしいとまで言っていたのだ。力を貸してくれると信じていた。

しかし彼はメイナードの顔を見た途端に、態度を急変させて突き放した。

それどころか王都にブラックウェル公爵家の呪いの噂を流し迫害してきたのだ。

誰もがメイナードから背を向けた。

母の実の兄である国王も、メイナードとの謁見を許さなかった。

メイナードは失意の中、サザラント城に戻った。

父は悲しそうな顔で迎えてくれた。メイナードの身に起きたことを知っていたようだ。

血が出るほど唇をかみしめて、泣きわめくのを堪えた。狂いそうになるのを必死に耐えた。

けれど、メイナードの中で確実になにかが変わっていた。

母から息子に移った呪いを恐れ離れていく家臣を見送るときにも、悲しくはなくただ仕方がないと思った。

もう誰にも期待はしない。宣言などはしなかったが、そう決心したのだ。


それから数年後、魔獣討伐で受けた傷が原因となり父が亡くなった。
突然の死だったが、常に危険に身を置くブラックウェル公爵としては珍しくない。
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