婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
アレクシアは落胆する心を隠し、ルイの前に、丁寧に淹れたお茶の入ったカップを置いた。

「ルイの好きな茶葉よ。ゆっくり飲んでね」

「はい……」

ルイは素直に頷いたが、空色の瞳は不安そうに揺れていた。

ルイはアレクシアの父である侯爵と後妻の間に生まれた息子で、アークライト侯爵家の後継者だ。
母親違いの弟だが、彼はアレクシアを慕ってくれた。
幼い頃は『姉さま、姉さま』と常に後を追って側を離れなかった。

そんなふうに素直に愛情表現をしてくれる弟が可愛くて、アレクシアも彼を大切に思っている。

「それで、あの王命はどういうことなのですか?」

ルイが落ち着かない様子で言う。アレクシアはカップをソーサーにそっと置いた。

「使者の言葉通りなの。イライアス王太子殿下から婚約解消を宣言されたうえに、ブラックウェル公爵に嫁ぐよう命じられました」

「そんな……なぜですか? 姉上は我がアークライト侯爵家の長女です。美しく優しく魔力も高い。誰よりも王太子妃に相応しいのに」

アレクシアは苦笑いを浮かべた。

「そんなふうに言ってくれるのはルイだけよ」

「そんなことはありません! すぐにでも国王陛下に謁見を願い出て、命令を撤回していただくようアークライト侯爵家として訴えるよう父上に進言します。呪われ公爵の妻なんて、姉上に相応しくありません」
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