婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
王太子と婚約者
オールディス王国王太子イライアスは、部下からの報告書に目を通しほくそ笑んだ。
なにもかもが自分の想い通り進んでいる。
「婚礼の儀は終わったか……ここまでうまくいくとはな」
報告書を暖炉に放りこんで灰にしてから、自室を出る。
登城している婚約者のオーレリアに会いに行くためだ。
癖ひとつない艶やかな黒髪に、神秘的な翡翠の瞳の美しい女。ひと目見て手に入れたいと思った。
残念ながら彼女は子爵令嬢で王太子の婚約者になるには身分が低く、慎重な根回しが必要だったため苦労したが。
今、思い返しても忌々しい日々だった。
とくに婚約者だったアレクシア・アークライト侯爵令嬢はその存在自体が不快だった。
容姿だけはなかなかのものだったが、なにもかもがイライアスとは合わなかったのだ。
なにかと綺麗ごとを言うし、無礼を働いた下女に罰を与えたときなどは、あからさまに顔をしかめた。
家格と、母の実家の希少な特技を考慮すると、王太子妃にもっとも近い令嬢ではあるのだが、排除したいと前々から思っていた。
しかし、アレクシアにはこれとっていって問題がなく、婚約破棄する大義名分が見つからないでいた。
事が動き始めたのは、オーレリアに悩みを打ち明けられたあの日――。