婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
オーレリアは頷き、イライアスに身体を寄せた。部屋は二人きりだが、彼女は警戒したように声を潜めて耳元で囁く。

『今、民の間ではある芝居が流行っているのです。それを利用してはいかがでしょう。まずは王都に噂を流して……』

イライアスは彼女の完璧な案を聞き気持ちを高ぶらせた。

『なるほど! 民を扇動してあの女の悪評を流すとはよく考えたな、さすがオーレリアだ!』

『いいえ、本当はこのようなことはしたくはなく、心苦しいのですが』

『何を言う! 本来なら処刑するところを救ってやるのだ。オーレリアの慈悲で生き残ることが出来るのだから感謝しかないだろう。よし、早速嫁ぎ先を決めなくてはな……』

二度と戻ってこられないような僻地が望ましい。豊かな暮らしをさせるつもりはさらさらない。

どこか条件に合うところは……記憶を探っていたイライアスは、浮かんだ妙案にぱっと顔を輝かせた。

『オーレリア! よいところがあるぞ!』

『まあ、それはどちらなのですか?』

『ブラックウェル公爵家だ!』

アレクシアと同じか、いやそれ以上に忌々しい相手。

二才年上のイライアスの従兄で、現当主でもある男が治める辺境の地。

『え……公爵家といえば、メイナード様ですか? なぜ……』

オーレリアはそれまで浮かべていた微笑みを消し、困惑している。
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