婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
薬つくり
中庭に魔獣が現れた日の翌日。
約束していた通り、ルーサーが薬作りの作業場に案内してくれた。
サザラント城の一画にあるそこには、三人の男女が働いていた。
若い男性ふたりに、高齢の女性がひとり。
男性は騎士で、薬作りの手伝いのために交代で来ているらしい。高齢の女性は名をマナカと言い、以前は隣国で薬師をしていたとのこと。
十年前の敗戦以降の国内政治に不満を持ち、オールディス王国の王都に移り住んだものの、隣国出身ゆえに雇ってくれるところが見つからず、紆余曲折を経てこの城にやって来たそうだ。
(お祖母様に少しだけ雰囲気が似ているわ)
前リリー子爵夫人である祖母は、貴族夫人というより、錬金術師の側面が強かった。
頑固で妥協を許さない厳しさを持ち、同時に情が深い人だった。
「公爵夫人アレクシア様とお付き侍女のディナ殿です。本日からこちらで薬を作っていただきます」
ルーサーが彼らにアレクシアを紹介する。
「よろしくお願いしますね」
アレクシアは微笑んだ。できるだけ皆と仲よくしたいと思ったからだ。
しかし、老婆が拒絶するように目を険しくした。
「私は反対だよ! 薬作りは貴族の奥方の娯楽じゃないんだ!」