婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「ええ。傷薬がもうないと聞いたから」

「ありがとうございます。騎士たちも喜びますよ」

「そうだといいのだけれど」

アレクしシアは、衣装が汚れるのを防ぐために付けている前掛けを外した。

ルーサーとディナと共に、作業室を出る。

部屋から少し離れたところで、先を歩いていたルーサーが歩みを止めて振り返った。

「実は、メイナード様からお話があるそうです」

「旦那様が私に?」

アレクシアは、瞬きをした。

普段の生活でメイナードと顔を合わせる機会はほとんどない。

寝室はもちろん、食事すら別。形ばかりの夫婦だから、それを当たり前と受け止めていたが、そんな状況での話とは突然呼び出すとは、いったいなにがあったのだろう。

まるで見当がつかない。しかし呼ばれたからには行くしかない。

「分かりました。いつ伺えばいいですか?」

「よろしければ今からでも」

「大丈夫です。ディナは部屋に戻っていて」

「では、ご案内します」

ルーサーに連れられて、回廊を進む。中央棟の二階、東の方に向かっているようだった。

「旦那様はどちらにおられるのですか?」

「メイナード様の執務室です。ああ、アレクシア様はまだ入られたことがありませんでしたね。この突き当りの部屋です」

突き当りに着くとルーサーは扉を叩いた。

「アレクシア様をお連れしました」

「入れ」

返ってきた低い声は、メイナードのものだった。
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