婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
傷つきもしたが、いつの頃からか嫌われているのなら仕方がないと割り切るようになり、なるべく接点を持たないように暮らしていた。

(パメラ様はむしろ私の追放を喜んでいそうだわ。お父様は……きっとなにも感じていないでしょうね)

父はアレクシアに家族の情を持っていない気がする。王太子の婚約者という立場があったから父に邪険にされず侯爵令嬢として不自由なく過ごせていたけれど、この先同じ扱いをしてもらえる可能性は低い。

心からアレクシアを心配してくれるのはルイだけだ。

そのルイは、とても悲しそうに俯いていた。

「母上はどうして姉上につらく当たるのでしょうか。僕と後継者の地位を争っている訳でもないのに」

「それは……私にも分からない。直接話し合ったこともないから」

おそらく大した理由はなく、前妻の娘というだけで目障りなのだろう。

「ブラックウェル公爵領は王都から遠く不便な地だと聞いています。領内の森には強い魔物がいるとも。姉上がそんな危険なところで暮すと思うと……」

苦しそうに言うルイに、アレクシアは微笑んだ。

「それについては、大丈夫よ」

「え?」

「未来の王妃教育で習ったの。人はどんな環境にも慣れるものなんですって」

「姉上、それを真に受けて……楽観的すぎませんか?」

ルイが困ったように眉を下げる。とても心配してくれているのが伝わってきた。

しかしアレクシアは、実はルイが思っているほど、箱入りではない。

彼は知らないだろうが、市井で暮した経験もあるのだ。

「ルイ、本当に私は大丈夫だから心配しないで」

悪役令嬢だと決めつけられ、身に覚えのない罪で追放を言い渡されたことは悲しいが、全て飲み込んで新しい環境でなんとか生きて行こう。

ルイの優しさに触れたおかげで、少しだけ前向きな気持ちになれた。

< 9 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop