政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
『それじゃ、結婚したことにならないわ。……皆を騙すことになってしまう……』
 はじめての夜にそう言って涙ぐんだ柚子に、翔吾は困り果ててしまった。
 まだ恋を知らない柚子は、夫婦とはそういうものだと思い込んでいるだけなのだ。
 住吉家の次女としての責任感だけで結婚を決めた彼女の頭の中は、その責任をまっとうしなければならないと思いでいっぱいなのだろう。
 本当はその時に言うべきだったのかもしれない。
 君はまだ恋を知らない、なにもわかっていないんだ。
 後で後悔する時がくる、だから今はやめておこうと。
 ……でも翔吾はそれをしなかった。
 そして柚子のその一生懸命な気持ちにつけ込んで、彼女を腕に抱いたのだ。
 それからの翔吾は、迷い、後悔、自己嫌悪、そんな思いに苛まれながら、金曜日の夜を過ごしている。
 ……だがもうそんな日々はおしまいだ。
 白いマシュマロのような頬にそっと触れると、そこは柔らかくほかほかと温かかった。
 柚子が、自らの子を授かった。
 それを知った瞬間に、翔吾の中に燻り続けていた迷いは綺麗さっぱり消え失せた。
 まだ恋を知らない彼女を手に入れてしまった罪は、彼女を幸せにすることで償おう。
 互いに遠慮し合う、ぎこちない新婚生活、そんな日々は終わりにして全力で彼女を愛し抜く。
 まだ恋を知らない彼女に、愛とはなにかを翔吾自身がおしえ込む。
 そして幸せな生涯をともにする。
 そう固く胸に誓い、幸せな夢を見るかのように笑みを湛える柚子の桜色の唇に、翔吾はそっと口づけた。
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