政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「でもこれからは……これからは本当の夫婦になろう。俺は……俺は柚子を愛してるよ」
「翔君……」
 柚子は目を見開いて、呟いた。
 今彼が言った言葉の意味が、うまく理解できなかった。
 彼は今、なんて言った……?
「俺たちの結婚は予想外の唐突な出来事だった。本当なら結婚することなどありえないふたりだったからね。……でも俺は、柚子だから、結婚しようと思ったんだ。柚子となら夫婦になれると思ったんだ。柚子のいいところを俺はたくさん知っているから」
「私のいいところを……?」
 柚子は小さく首を傾げる。
 翔吾が力強く頷いた。
「そう。相手が柚子でなかったら、俺は結婚しようとは思わなかった」
 不思議な言葉だった。
 柚子でなければならないなんて、そんなこと柚子の今までの人生でありえないことだった。
"柚子でもいい"はあり得ても、"柚子でなければ"なんてこと……。
「でも……でも私……」
 少し混乱した思考の中で、柚子はほとんど無意識に、いつも言っていた言葉を口にする。
「お姉ちゃんはなんでもできるけど、私はなにをやっても平凡で……だから、私だからなんてこと……」
「比べる必要なんてない」
 でもそれを、力強い翔吾の声が遮った。
「比べる必要なんてない……?」
「そう。柚子は柚子で沙希は沙希だ。俺は柚子と結婚してよかったと心から思う」
 柚子の胸を熱いなにかが貫いた。
 姉は姉で、自分は自分。
 それは本当にあたりまえで改めて言う必要などない事実。
 でもまるで今はじめて聞いた言葉のように新鮮に柚子の耳に響いた。
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