政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 妻の柚子の姉であり、翔吾のかつての婚約者でもある住吉沙希だ。
《ふふふ、まぁそうね。元気よ》
「今はどこにいるんだ?」
 翔吾との婚約を解消したあと彼女は実家から勘当された。住吉家としては形の上でそうせざるを得なかったからだ。だがそれほど厳格ではない住吉夫妻のこと、おそらく居場所くらいは把握しているはず。
 当然ながらそれが、翔吾にまで伝えられることはなかったが。
《ふふふ、一箇所ではないわ。でも日本ではないことはたしかね》
 彼女は輸入雑貨の販売を手がける会社を自ら立ち上げて、その買い付けに世界中を飛び回っている。
 互いに男女としての愛情を育むことはできなかったが、親友のような同志のような幼なじみだ。
 なんにせよ、元気そうでよかったと翔吾は思う。
《そっちはどう?》
 沙希の言葉に翔吾はフッと笑みを漏らした。
「まぁ……なんとかやってるよ」
 柚子が新しい命を授かったという今の翔吾にとってなによりもうれしい出来事が真っ先に頭に浮かぶ。喉のところまで出かかって、でもなんとかそれを堪えた。
 いくら親友相手とはいえ、柚子に相談もなしに、言うわけにはいかない。
 だがそのやや曖昧な翔吾の答えに沙希は納得しなかった。
《柚子のことは大事にしてくれてるんでしょうね》
 その脅すような言い方に翔吾は思わず苦笑する。
 まったくこの姉妹は、互いに互いが大好きなのだ。
 先日臨海公園へ行った時も柚子の口から出るのは沙希のことばかりだった。
「ああ、大切にしてるよ」
< 65 / 108 >

この作品をシェア

pagetop