政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 言葉に力を入れて翔吾が応えると、電話の向こうで安堵したようにため息をついた気配がする。そしてそれはすぐにくすくすという笑い声に変わった。
「……なんだよ」
 翔吾はやや不機嫌に問いかけた。
《いやーそれにしてもうまくいったなと思って》
 そう言って沙希はくすくすと笑い続ける。
 翔吾は憮然として黙り込んだ。
《そもそも私たちの組み合わせが、ミスマッチだったのよねぇ? どう考えても私に朝比奈家の嫁が務まるはずないのに》
 おかしそうに沙希は言う。
 朝比奈家の嫁うんぬんはともかくとして、沙希と翔吾の組み合わせがミスマッチだったという意見には翔吾も完全に同意だった。
「……ま、歳が近かったからな」
 互いの両親は、良くも悪くもあまり深くものを考えないタチだ。
 朝比奈家と住吉家を縁続きにすると決めた時点で歳が近くてちょうどよかったふたりを、婚約させたのだろう。
 ふたりの性格や相性等は二の次だったに違いない。
《でもほら、どう見てもあなたは、柚子の方を……ねぇ? ふふふ。なんにせよ、丸く収まったみたいでよかったわ》
 意味深な沙希の言葉に翔吾はまたもや憮然とする。
 自らの柚子に対する気持ちはひた隠しに隠してきたつもりだったが、長年の親友にはどうやら気付かれていたらしい。
 翔吾はため息をついて、口を開いた。
「それで? そんなことを言うためにわざわざ電話してきたのか? 株式会社アトリスの社長さま?」
 わざと役職で呼びかけると、彼女は笑うのをやめて、軽く咳払いをする。
 そして瞬時にビジネスモードに切り替わった。
《企画書を見ていただきたいの》
「それはべつにかまわないけど、元婚約者としての特別扱いはできないぞ」
 翔吾も沙希に合わせてビジネスモードで言葉を返す。
《もちろんよ》
 沙希が答えた。
《こうやって朝比奈グループの副社長さまに直接電話できるだけでも十分ありがたいことだもの。でもこちらも生半可なものを持って行くつもりはないから》
「期待してるよ」
 数日以内に帰国するという彼女と、三日後に会う約束を取り付けて、翔吾は電話を切った。
 再び秘書を呼ぶと彼女との約束を告げる。
 ついでに、あることに思いあたり口を開いた。
「今後のスケジュールのことなんだが……」
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