政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 言い聞かせるように、安心させるように翔吾は言う。そして柚子の手を握り柚子にとっては考えてもみなかった意外な言葉を口にした。
『母さんが、柚子を連れて出歩くのは、柚子になにかをおしえようとしているわけじゃない。そうじゃなくて、ただ柚子が可愛いからなんだ』
『……は?』
 思ってもみなかったその言葉に、柚子は少し間抜けな声を漏らしてしまった。
 翔吾がため息をついた。
『可愛くて仕方がないんだよ。俺はひとり息子だから、娘が欲しかったって母さんはずっと口癖のように言っていた。だからもともと柚子のことは娘のように可愛がっていただろう? 本当の家族になれて嬉しいんだよ。しかも柚子は、どこへ連れて行っても評判がいいから……まぁちょっとハイになってるんだな』
 呆れたようにそう言って、翔吾はまた眉を寄せた。
『だからって柚子に負担をかけていいってことにはならないけど』
 一方で、柚子の方は本当に意外なその話の内容に唖然としてしまっていた。
『私の評判が……いい……?』
 翔吾が頷いた。
『ああ、いいよ。よすぎるくらいだ。だから母さんはつい自慢したくて……』
『まさかそんな……!』
 反射的に、柚子は声をあげて首を振った。
 結婚してからの半年間で翔吾の妻として、レセプションはパーティに柚子はたくさん同伴した。
 そこは慣れないことの連続で、とてもじゃないがスマートに振る舞えていた記憶はない。
 彼の妻として柚子の評判がいいなんてそんなこと、あるはずがないのだ。
『そんな……、嘘でしょう? お義母さまも翔君も私に気を遣って……!』
『そうじゃない、柚子。そうじゃないよ。柚子は本当にとてもよくやってくれている』
 力強い翔吾の言葉が柚子の言葉を遮った。
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