政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
『朝比奈家の嫁がどうあるべきかなんてこと正直言って、俺にはどうでもいい話だけど、どうしても注目されてしまう部分は否めない。たとえそれに柚子が馴染めなかったとしても、それは決して柚子のせいではないんだ。だから俺はそれについてあまり深く考えてはいなかったけれど、でも柚子は本当によくやってくれている。この間ひとりで行ったパーティでは、奥さまにも会いたかったと何度言われたかしれないよ』
 翔吾の言葉に柚子は頭の中でなおも反論する。
 もしそんなことがあったとすれば、それはよくある社交辞令にすぎないと。
 姉の沙希ならともかくとして、まさか柚子に対してそんなこと……!
 でもそこまで考えて、柚子はハッとしてその考えを中断した。
 そうだ。
 姉は姉で、自分は自分。
 姉よりも自分が劣っているなんていう風に考えるのはやめにしよう、そう決めたじゃないか。
 たくさんの人から好かれていつも人の輪の中心にいた姉の沙希。
 でも柚子にだって、真希や里香といういい友人がいる。
 柚子にも会いたかったと翔吾に言ってくれた人たちの中には本当にそう思ってくれていた人もいたはずだ。
『とにかく、今後のことはともかくとして今回の件は母さんには俺から断っておくよ。柚子は今普通の身体じゃないんだから』
 そう言ってまたもや電話をかけようとする翔吾を柚子は慌てて止めた。
『あ、待って、翔君』
 小さい頃からたくさんやった習い事は、どれもこれといって身にならなかったがそれなりに楽しんだ。
 でもその中で、生花だけは悔いが残っているのだ。
 そもそも柚子は花が好きだ。
 機会があればまたやってみたいという気持ちはあったけれど、かつての先生に言われた"姉に比べて柚子はまったくセンスなし"の言葉が胸に引っかかり、その一歩を踏み出せずにいた。
 唇を噛んで柚子はジッと考えた。
 姉は姉、自分は自分。
 その言葉を噛み締めて、柚子は翔吾に告げたのだ。
『お義母さまとの今後のことで翔君にお願いすることはあるかもしれない。でも生花に関しては私、もう一度やってみたかったの。お誘いはありがたくお受けすることにする』
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