政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 耳元で翔吾が優しく囁く。
 でもそれに柚子は頬を膨らませて応えた。
「それはそうだけど……。翔君は、私を甘やかしてばかりなんだもん」
 後から聞いたことだけれど、柚子が妊娠したと知ったあの日すぐに翔吾は出産に関する本を一冊読んだのだという。
 だから柚子が本当に妊娠していることがわかった時点で、もう彼は柚子よりも出産に関して知識がある状態だった。
 自分を愛してくれる勉強熱心な優しい旦那さまがそばにいれば、これ以上ないくらい心強いに違いない。
 でも彼にはひとつだけ欠点があった。
 柚子に甘すぎるのである。
 まず彼は柚子が退院した後、つわりで倒れた柚子のために、貧血にいいという食材で毎日柚子の朝ごはんを作るようになった。
 彼お手製の野菜スープやフルーツサラダは食欲がないはずの柚子でも食べられた。
 とてもありがたかったけれど、それは柚子のつわりがおさまって動けるようになった今も続いているのである。
 それどころか、どんどん過保護になっていく。
 もちろん彼自身忙しい立場だから四六時中はそばにいられない。でもだからこそ、一緒にいる時間はそれこそリビングから寝室までの廊下だって、自ら抱いて運びかねないほどの勢いだ。
 先日ふたり揃って行った健診で、産科の先生に『体調がいいならむしろ妊婦さんは動いた方がいいんですよ』とアドバイスしてもらったが、それは効果があったのかどうなのか……。
 日曜日の今日は、彼も休みだからこうやって一緒に過ごしているわけだが、お腹が目立つようになってきてから少し腰痛があると、うっかり柚子が漏らしてしまったのを聞きつけて、ただソファに座っているだけなのに、『腰に負担がかからないように』などと言って、自ら柚子専用のソファになっている。
 本当に、こんなに甘い人だとは思わなかったと苦笑して、柚子は小さくため息をつく。
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