下弦の月
俺の髪結いが終わって、





斉藤の髪結いをする。と出て行こうとする八重に慌てて、




着いていこうと八重の道具箱を手にした月香から、道具箱を取り上げた八重は、






「土方さん、月香と話したそうだら…相手よろしく。」






と、どう俺を見て…そう感じたのかはわからないが。






驚いて俺を見た、月香に微笑んで部屋を出て行ってしまった。






「全く…八重には完敗だな…」





溜め息交じりに、閉められた襖を見つめたまま。






呟いた声に。






「私も…です。土方さんと話したかった…です。」






ほんのり顔を赤く染めて、俯き加減に呟いた。






女に不自由したことのない俺は、今まで女が顔を赤く染めても何も思わなかった。





むしろ、そうなるのを予測しての行動をし、甘い言葉を囁いていた。






だか、なぜか……月香だけは赤く染まる顔が可愛く。




その顔を見たくて、言葉を探してしまう。




探そうとすれば、見つからないもので。





何を話していいのかも、どうしていいのかもわからない。





今の俺の立場や御時世で、いつ命を落とすとも限らない。





それをわかっているだけに、恋はしない。





恋仲の相手なんて作らない。





恋をすれば、辛いだけで……その辛さが煩わしい。




恋仲になれば…一人に出来なくなる、手離せなくなる。




そう、思っていたから。






だが、俺はどうやら…月香に恋をしてしまったらしい。





しかも……一目見た時に。
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