下弦の月
いったい、この人は…いつちゃんと休んでるんだろう。




残業して、帰っても仕事して。



ソファーで寝てるなんて……。






「ちゃんとベットで寝て下さい、ソファーなんかじゃ…まともに眠れませんよ。いつか、風邪だって引いちゃいますよ?」






「心配してくれてるのか?」





「そりゃ…心配します、部長が体調を崩したら…皆が困りますから…」





「…そうだな…皆に迷惑はかけれないよな。ありがとな。」






「いえ…それじゃ、私は帰ります。」





手帳を鞄に入れて、立ち上がった私を。





「もう…帰るのか?」




部長のまだ、掠れた声が止めた。





「…だって…私が居たら、ゆっくり休日なのに休めないでしょうから…」






身体を起こした部長は、完全なオフスタイルで。








「そんなこと…ねぇよ。今日は、出掛けるつもりだったしな…水上も一緒に用がないなら行かねぇかなって思ったんだが…」






「そんな…用事はないですけど…私は…帰ります…」






「…ったく…なら…一旦、帰って出掛ける準備しとけ?昨日、水上が言ってた駅まで迎えに行くから。水上の家は、あの近くなんだろ?」






「…はい…そうですけど…本当に私が…一緒に行ってもいいんですか?」





「一緒に行って、まずい所なら…誘わねぇよ。昨日の礼だと思って付き合え、な?」






そんな事を…




その瞳に捕らわれて言われたら……



もう断る言葉なんて浮かばないよ。






コクリと、首を縦に振ると。




ソファーから降りて、ローテーブルの携帯に手を伸ばして、



時間を確認してから。





「…今、9時だから…11時半でいいか?」





「はい、待ってます…」





そう答えた私を、玄関まで送ってくれて。






「また…後でな。」





子供をあやすように、頭を撫でて笑顔を見せた。





微笑んだ顔しか見たことなかったから、



部長は笑うと笑窪が出る事を始めて知った。





この笑顔が、胸をドクッと跳ねさせた。
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