下弦の月
帰ってから、シャワーを浴びてリビングに行くと。





ソファーに座っている父がいて。






「さっき、帰って来たのか?」





「うん…連絡しなくてごめんね…」






「 何かと物騒な世の中だからな、連絡だけはしろよ。今日は休みだろ? 出掛けるのか?」





「あっ…うん。」





「そうか、気をつけてな。」






肩を叩いてくれた父に、珈琲を淹れて。




私の分の珈琲も淹れて、ソファーで飲んでいると。







「月香…好きな人はいないのか?」






唐突に、父が思いも掛けない言葉を口にした。






「…いないと言ったら嘘になるかな…」





「そうか、月香も29になったんだ。早く結婚しなさい。」





「…そうだね、でも…お父さんは寂しくなるでしょ?」






「俺は…大丈夫だ、お兄ちゃんも近くに住んでるしな…」






そう、兄は結婚して車で15分くらいの距離のマンションに住んでいる。






「そうだね、ありがとう…お父さん。」





笑顔をくれた父に、笑顔を返して。





飲み終わったマグカップを2つ、キッチンで洗って。




自分の部屋へ向かった。 







部長にも、同じような事を言われた事を思い出して。




切なくなった。
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