下弦の月
待ち合わせ場所の駅に着いてすぐにーーー、




部長の車が目の前の路肩に止まった。






駆け寄ると、運転席から助手席のドアを開けてくれた。









「どこに行くんですか?」





見慣れたスーツ姿じゃない、私服の部長にドキドキしながら、



聞いて見る。








「墓参り。」





「墓参り?私は本当に行ってもいいんですか?」






「別に身内のってわけじゃないし、水上が一緒でも構わないよ…この時期には時間がある時に行ってるんだ、土方歳三の墓の一つにな。」






「……私は、この前の命日に行って来たんです……」





「…そうか、何処へ?」






「円通寺です。」






「円通寺か…俺は毎年、石田寺に行くんだ。」






「まだ…そこには行った事ないんです、確か…故郷ですよね?」






「ああ…よく知ってるな?」





知ってるも何も……歳三さんの故郷だから、



あえて行かないようにしてたのに……



辛くなりそうだから……





それなのに、寄りによって部長と行くなんて……



「どうした?」





下を向いたままの私に、優しい瞳で聞かれた。





「いえ…私…史学科を出てるので、詳しいですよ。」





「ふ~ん…本当に…それだけか?」





なんて、まるで気付いているような質問。




素直に…私から言う?





それなのに、





「それだけです。」





って……答えていた。





そうか…。とだけ、呟いて。





それ以上は…何も聞かれなくてホッとしたけれど。





もしかしたら、既に部長は気付いてくれてるのかもしれない。




だとしたら……思い出せないって言ってたのに、




いつから?





運転する横顔に目を向けて、ただ見つめてしまう。






「ん?そんなに見つめられると…な…」





「すいません…」





「謝らなくていいけどな…照れるんだよ。」






「…すいません…」






また、謝ってしまった私を横目で見て笑いを堪えている。
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