下弦の月
「水上の、すいませんは…口癖か?」





「違います…けど…」





「なら、謝るなよ。見つめられて…勝手に俺が照れるだけだ。」






下を向いたままの、私はまた謝ってしまいそうで。






「別に…私は、構わないので…煙草を吸ってくれていいですよ?」




吸いたいのを我慢しているのか…ガムを噛んだ部長に言ってみる。





「いいのか?匂いとか嫌だろ?」






「平気です、兄がベビースモーカーだったので…」






「そうか…なら、遠慮なく。運転してると吸いたくなるんだよな。」






「兄も、同じ事を言ってました。」






「なんでだろうな…」






と、呟きながら煙草に火を点す仕草さえも格好いい。






私は、まだ……この人を歳三さんとして見ているのだろうか?




ううん……違う。





仕事の鬼みたいな所は同じだけど、




たぶん私の見る限り、性格は違う気がする。





生まれ変わりってだけで、全くの別人。





部長の優しさが好き。




笑窪の出る笑顔が好き。




時折、見せる強引さが好き。




ダークブラウンの瞳が好き。




会社での眉間に皺を寄せた顔が好き。






好きな所は、たくさんあって……




完全に私は、部長に捕らわれてるみたい。







だけど、部長が気付いているなら……




どう想ってるんだろう?





気持ちだけじゃない、何を思って私を連れて来たのだろう?
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