下弦の月
聞く勇気もない私。




たぶん……聞くのが怖いんだと思う。




あんなに待ち焦がれた人の生まれ変わりのはずなのに……




いざ、目の前に現れたら……




言葉を選んで話して、彼の言動に一喜一憂して。






上司と部下の関係で、だけど。



こうして休日を一緒に過ごして、



会社では見れない部長の笑顔や仕草を見れて。







いつかは、必ず想いを伝えたい。





だって私は……歳三さんとして好きになったんじゃない。




安藤 柊輔という人に、




次第に……惹かれていたんだから。





歳三さんの墓前に、途中で買った花を添えて。




部長の隣にしゃがんで手合わせる。






“ありがとうございます、歳三さん。生まれ変わってくれて、約束を果たしてくれて。”






円通寺の墓前とは、違う事を伝えて。





部長を見ると、まだ目をつむり手を合わせている。





目を開けるまで、待つことにして。











「何を伝えてたんですか?」





漸く目を開けた部長に聞くと、





「水上は?」





と、逆に聞かれてしまい。





「内緒です。」





そう返すと、子供みたいな無邪気な笑顔で。





「教えてくれないなら、俺も教えない。」





って……言われて。




また、新たな…こんな笑顔も見れて。




私まで、笑顔になっていた。







それから、此処へ来ると必ず来るという、




蕎麦屋さんで遅めの昼食をご馳走になった。
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