下弦の月
「佐藤から連絡があった。お前が院長に誘われた、嫌な予感がするってな。なぜ…一人で行った?」






「…大丈夫だって思ったから…です…」






「そうか…なら、どうして俺に報告しなかった?」






「…部長なら…来てくれるって…思ったからです…」






「行くに決まってんだろ。」





「わかっていたから…出張で…疲れてるはずだから…心配かけたくなかったんです…」






「本当に…お前は…」






大きく溜め息をついて、私の隣に座ると、



思いっきり抱き締められて。







「俺が、どれだけ…心配したと思ってんだ。何もされてなきゃいいって願って、駆け付ければ押し倒されてるし…殴ってしまいそうなのを必死に堪えて…。お前は…部下である前に…大切な女なんだよ…他の男なんかに傷付けられて堪るかよ…」





大切な女……




さっきも…言ってくれたけれど……





その場凌ぎの言葉じゃなかったってことだよね?




「あの場凌ぎじゃない。月香…お前が好きだ…」





私の心の中の質問は、部長のダークブラウンの瞳で。




真っ直ぐに見つめられて告げられた。




その瞳に偽りはなくて、





「…私も…好き…です…」





自分の気持ちもちゃんと、嬉しくて仕方ないって勢いに任せて……告げると。





「安藤 柊輔としてか?それとも…土方の生まれ変わりだからか?」





予想では、また抱き締めてくれるって自惚れだった。




だけど、予想に反した言葉だった

けれど。





「安藤 柊輔として…好きです…」





素直に瞳に、部長を映して告げた。






「…そうか…ありがとう。ずっと、月香は土方として俺を見てると思ってたから…すげぇ嬉しい…」






そう言って、背中に回されたままだった手を。




頭の後ろに移動して、鼻先がぶつかるような距離まで引き寄せて。





「月香……俺の女になれ」






はい。と頷いた私の唇に、




部長の唇が重ねられて。




離れては何度も何度も…重ね合わせていた。
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