下弦の月
「お疲れ。どうした?」




私を横目で捉えて、言った柊輔さん。




緩められたネクタイ、第2ボタンまで開けれたYシャツから見える綺麗な鎖骨。




そこには、昨夜……私が付けたらしい紅い痕が見えていた。






「見えてるよ…」





すぐに何がなのか…気付いたらしく。





「いいじゃねぇか、別に。見られて困るもんじゃない。」






「…よくない。恥ずかしい…」





「恥ずかしい…ってな…自分で付けといて、よく言うよ。」





「…無意識で…つい…」





「無意識ね…それより、健吾と知り合いなのか?」






「へ?健吾って…柊輔さんこそ知り合いなの?」






「ああ…高校の友達だよ。アイツが本社に居たのは知ってたから、俺が引っ張って来たんだ。それで…お前は?」






「…元彼…」






まさか…柊輔さんと健ちゃんが友達だったなんて、



予想すら出来なかったけれど。



隠しても仕方なくて、素直に答えると。



柊輔さんの眉間に皺が刻まれて。






「…まじかよ…あまりに仲良さそうに話してるから、まさかと思ったが…本当に元彼だとはな…」






深く吐かれた溜め息に、どんな意味が込められているのか…



なんてわからなくて。






「あの……柊輔さん…?」





恐る恐る聞いてみる。







「まあ…アイツが元彼だろうと、関係ないけどな。今…お前は俺のだから。キスマークも隠す事もないだろ。」






頭を撫でられて、見つめたままだった瞳が。



あまりに優しくて、安心して大きく首を縦に振る。






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