下弦の月
それから数週間が立ちーーー。




平穏な日々が続いていたが。




営業先から戻って、そのまま喫煙室で煙草を吸っていると。




健吾が入って来て、向かいに立ち煙草に火を点けた。








「お疲れ様。」






「おう、お疲れ。」






そんな業務的な挨拶を交わした後、沈黙が流れて。






「なあ…月香は、いい女になったよ。」





なんて、鋭い視線が突き刺さった。




思わず舌打ちをして。






「何が言いたい?」





「…振った事を後悔してる。あんな、いい女になるとは思わなかった…」






「だから何だよ?」






「選ぶのは…月香だから。月香がお前を選ぶなら、俺は引き下がる。だけど、俺を選ぶなら遠慮はしない。」






「そうか…お前の今の言葉、そのまま返すぜ。」






短くなった2本目の煙草を灰皿に投げ入れて、





喫煙室を出た。



大きく気分を落ち着かせるため、息を吐く。






月香が、もし健吾を選んだなら俺はどうしたらいい。





余裕も自信もない。





持ち主不在の月香のデスクに目を向けると。






書類の山が目に入った。





また、あんなに書類を一人で抱えて。




頑張りすぎだろ。




頼れって言っても、頼らない。




深い溜め息が零れたが、それも月香なんだろうな。





そういう所にも、惚れたのかもしれない。
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