下弦の月
俯いたままの私を、さらに聞き出そうとする篠田先輩を止めてくれたのは。





柊輔さんで。







「篠田!そして、聞き耳立ててる奴等も、仕事中だろ!水上との事は否定しない!わかったら、早く仕事しろ!」







低い不機嫌な声が部内に響いて、篠田先輩もみんな、仕事を始めた。






柊輔さんと目が合うと、僅かに微笑んでくれて。





大丈夫だ。と言ってくれているように見えた。






噂には、尾ひれが付くもので。





私が、柊輔さんを誘惑したとか健ちゃんとの関係まで広まっていて。




三角関係だとか、社内は今はそれで持ちきり。






うんざりしている私の救いは、いつも。




大丈夫ですよ。と声を掛けてくれて、




嫌味を言われると庇ってくれる栞ちゃんの存在だった。







健ちゃんには、






「噂のおかげで、堂々と月香を口説ける。」






そう…冗談ではない、本気な瞳で給湯室で言われてから。





必用に口説かれている。




断っても断っても。






柊輔さんは、その現場を目撃する度に眉間に皺を刻んで。




部内を出ていく。





お互いに仕事を楽に出来ないせいで、



溜まりに溜まった仕事を片付ける事で精一杯で、




二人の時間なんて全く取れていなかった。
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