下弦の月
部内に、篠田先輩と栞ちゃんと戻る途中。





給湯室前に差し掛かった時、




入口前の壁に寄り掛かっていた柊輔さんに、




腕を取られた。






「何でしょう?」





反射的に出た言葉には、答えずに。





「少し、水上を借りる。」






篠田先輩と栞ちゃんに、そう告げた柊輔さんに給湯室に引きずり込まれた。





そのせいで、倒れそうになった身体は柊輔さんに抱き止められて。





至近距離で見上げる柊輔さんに、ドクッと心臓が跳ねた。








「お前、ちゃんと朝礼で俺の話聞いてたか?」






腕に抱かれたまま…そう言われて、






「…すいません、聞いてなかった…ちゃんと…」






素直に答えたが、本当は聞いてなかったんじゃなくて。




ファンクラブの子達の事を考えていたり、




見惚れて耳に入ってこなかっただけ…




なんて言えなかった。






「だろうな…百面相しやがって…何を考えてたんだ?」






「…なにも…」






「嘘つけ!素直に、言えよ。俺に…見惚れてたんだろ?」






「…ち、ちがう…」






「ふ~ん…顔を真っ赤にしてたくせに…な。」






あの赤い顔を見られてたのは、瞳が合ったのは自惚れじゃなかったんだ。






恥ずかしくなって、胸に顔を埋めると。






「…ったく…図星か…」






その、溜め息交じりの言葉と同時に、





顎に指を添えられて、唇を奪われていた。





何度か重なる唇。





わざと、リップ音を立てて離れされた唇が名残惜しい。







「そんな瞳で見るな。今日、俺の家で待ってろ?」







頷いた私の頭にポンッと手を置いて、






「顔、直してから来いよ。ついでにコーヒー淹れて来てくれ。」






そう、言って給湯室を出て行った。






きっと今の私は、絞まりのない顔をしてるに違いない。









そんな年明けの初日は、




戻って来た私を、挟んだデスクの持ち主二人に、





引きずり込まれた給湯室での事を追及されて、







朝から疲労困憊で、一日を終えた。
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