下弦の月
その日の夜に、




柊輔さんの家に来ていた私は、





情交の後のお風呂で後ろから抱き締められている。







「なあ…春になったら、花見に行こうぜ?」






突然また……思い付いたように言い出した。




この人は、いつも突然言い出す事がある。







「どこに?」





「京都。」






なぜ…京都?




そんな疑問は、すぐに浮かんで消えた。





たぶん……歳三さんと私の思い出の場所だから。




一緒に桜を見れなかったから。






そう言えば、年越し中に呟いていた。






『前世での月香の記憶が、鮮明になった』って。






「うん、行こうね。」






「ああ…函館も行ってみてぇ。」





今度は、函館?





そう、思いながらも頷いていた。





「函館は嫌か?」





「どうして?」





「土方が死んだ場所だから…」





たぶん、渋々と頷いたからだと思うけど。




自ら行きたいとは思わないけれど…嫌ではない。






それを、そのまま口にすると。





「いつか、行こうぜ。なんか…前世の俺が最後に、クサイ台詞を吐いた気がする…その場所へ行きたいだけだ。」







私にとったら、クサイ台詞ではないけれど。




嬉しかった、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
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