下弦の月
その日から、程無くしてーー。








のちに禁門の変と呼ばれる、長州との武力抗争が勃発したが。




幕府側の勝利で新撰組の皆も無事に帰って来た。









それを境に、ますます忙しくなった土方さん。










今日もお茶を持って、仕事の合間にお邪魔すると。






今日は珍しく、文机から目を離して。





机に寄り掛かりながら、私の渡したお茶に手を伸ばして。






「お前の茶は…落ち着く…」






呟くように、一口飲んで言ってくれて。




頬が赤く染まっていく。








だって……左膝を立てて机に右肘を乗せて座っている姿があまりに妖艶で。






しかも今日は髪を結っていないから、



腰まである長い黒髪の一部が首筋に張り付いていて、




妖艶さに拍車を掛けている。



「土方さん…髪を結ってないと暑くないですか?」






「…暑いな…邪魔だしな…」






「結いましょうか?」






「…ああ…頼む。」








膝の上にあったお盆を傍らに置いて、





八重がくれた櫛を袂から出して、机に向かって座り直してくれた土方さんの髪に櫛を透す。






「本当に…綺麗な髪ですね。」






「そうか…特に手入れなんざ、してねぇんだがな…」






手入れをしていなくても、綺麗なんて羨ましい。




私なんて…この時代に来てからパサついてきた気がする。










結い終わると同時に振り返った土方さんの手が、




下で束ねて肩に掛かっていた私の髪に触れて。






「お前の髪も綺麗だ。俺は…お前髪、好きだぜ。」






なんて言って微笑んだ顔があまりに近くに有りすぎて、



咄嗟に瞳を逸らしてしまう。
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