下弦の月
息の上がった呼吸を調えて、屯所の前で、
「すいません、月香です!」
声を張り上げると、出迎えてくれたのは。
沖田さんだった。
彼の二重の瞼は赤く腫れているように、見えた。
山南さんを捕らえて、介錯したのは彼だ。
試衛館の頃から、一緒だった人を自分の手で殺めたも同じ。
辛いはず。
「土方さん、居る?」
「土方さんなら、部屋に居るよ。」
御礼を言って、屯所に入ると。
「俺に、会いに来てくれたんじゃないんだ…残念。」
そう、呟いた声が背中越しに聞こえて振り返ると、
「あの人、かなり辛いはずなのに…涙ひとつ見せないんだよ。だから、頼んだよ。」
笑顔で、私の肩を叩いた沖田さんに頷いて。
背中を向けると、
「あっ、ちょっと待って!」
沖田さんは、私を呼び止めて、私の前に回ってから、
懐から銀の簪を出して私に握らせた。
「山南さんが、月香さんに渡してくれ。ってさ…」
それは、あの日……私がタイムスリップした時の簪だった。
どうして…山南さんが持ってるの?
驚いた顔で、沖田さんを見上げると。
「なんでも、脱走する前日に…町を歩いていたら、その簪が落ちてたんだってさ。それで、月香さんに似合いだなって拾ったらしいよ。渡しそびれたみたい。」
「…そうだったんだ…ありがとう、沖田さん。」
「うん……大切にしてあげて。」
ふわっと微笑んで、沖田さんは屯所の奥に歩いて行った。
これがあれば、私はいつでも戻れるのだけど……
私は、新年に交わした約束のキスの時に決心していた。
今後、激化していく時代のうねりの中で。
彼を…土方さんを支えて行くって。
土方さんの命が尽きる瞬間まで、側にいるって。
だからまだ、この簪を使うのは先の事。
その簪を、懐に締まって土方さんの部屋に向かった。
「すいません、月香です!」
声を張り上げると、出迎えてくれたのは。
沖田さんだった。
彼の二重の瞼は赤く腫れているように、見えた。
山南さんを捕らえて、介錯したのは彼だ。
試衛館の頃から、一緒だった人を自分の手で殺めたも同じ。
辛いはず。
「土方さん、居る?」
「土方さんなら、部屋に居るよ。」
御礼を言って、屯所に入ると。
「俺に、会いに来てくれたんじゃないんだ…残念。」
そう、呟いた声が背中越しに聞こえて振り返ると、
「あの人、かなり辛いはずなのに…涙ひとつ見せないんだよ。だから、頼んだよ。」
笑顔で、私の肩を叩いた沖田さんに頷いて。
背中を向けると、
「あっ、ちょっと待って!」
沖田さんは、私を呼び止めて、私の前に回ってから、
懐から銀の簪を出して私に握らせた。
「山南さんが、月香さんに渡してくれ。ってさ…」
それは、あの日……私がタイムスリップした時の簪だった。
どうして…山南さんが持ってるの?
驚いた顔で、沖田さんを見上げると。
「なんでも、脱走する前日に…町を歩いていたら、その簪が落ちてたんだってさ。それで、月香さんに似合いだなって拾ったらしいよ。渡しそびれたみたい。」
「…そうだったんだ…ありがとう、沖田さん。」
「うん……大切にしてあげて。」
ふわっと微笑んで、沖田さんは屯所の奥に歩いて行った。
これがあれば、私はいつでも戻れるのだけど……
私は、新年に交わした約束のキスの時に決心していた。
今後、激化していく時代のうねりの中で。
彼を…土方さんを支えて行くって。
土方さんの命が尽きる瞬間まで、側にいるって。
だからまだ、この簪を使うのは先の事。
その簪を、懐に締まって土方さんの部屋に向かった。