下弦の月
八重と言えば、




御陵衛士として、伊東さん達と出て行った斎藤さんが居なくなってから……





塞ぎ気味だった。






そう、八重が想いを寄せているのは斎藤さんなのだ。







私には、土方さんとの事を色々と言うくせに……





自分の事になると、からっきしだ。






恋する乙女のように、可愛くなる。







今なら、チャンスですよ!






原田さんに教えてあげたいが、彼が前に言っていた様子なら…




口説くような事はしないだろう。





自分の気持ちを圧し殺して、慰めるのが彼だから。








「大丈夫だよ、八重。斎藤さんは…新撰組に戻ってくるから。」







「本当に?」







「うん、私の記憶が確かならね。」







私だから、わかる新撰組の裏情報とも言える事を。




私の素性を知る八重だから教えてあげられたこと。






斎藤さんは、スパイとして御陵衛士に加わった。






とは……さすがに言えなかったけれど。







そんな、八重をやっぱり慰めたのは……





私がわざわざ言わなくても、原田さんだった。






理由を付けては、店にやって来たり。




店終いの後、二人で出掛けたり。





夏には、二人で蛍を見に行くというから。




原田さんの計らいで、





私も忙しい土方さんを連れ出して、




四人で蛍を見に行った。
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