下弦の月
先に、土方さんは斎藤さんに隊士を預けて。





会津に向かわせた。






そして、私は近藤さんと島田さんも一緒に流山に留まる事になった。






しかし、半月後ーーー。






敵に囲まれ、近藤さんは私達を逃がそうと投降すると言い出した。








「何を言ってんだ?俺が……あんたを置いて行ける訳がねぇだろ?」







「トシ…俺はな、もう充分だ。農家に産まれた俺が刀を差して幕臣にまでなれた。だが、新撰組を率いて来たのは…俺が幕臣になれたのもトシのおかげだ。だから…これからも新撰組にはトシが必要なんだ。」







「…ったく…俺に一人で重い荷物を背負わせるんだな…」







「すまないな…」






「最後にひとつだけいいか?」





「なんだ?」






「俺に…新撰組を託すのは、局長命令か?」







「そうだ!わかったら、早く行け!」







土方さんは、深々と頭を下げて背中を向けた。







そして、私に……






「トシを頼む。」






一言だけ言って、私の背中を押した。






押された先に、土方さんの背中があって。





離れれば、泣いてしまいそうで。





背中越しに大きく、近藤さんにも伝わるように頷いた。






背中を向けているせいで、本当の表情はわからないけれど。





いつもの柔らかい笑顔を向けてくれた気がした。









土方さんに手を引かれて、流山の陣から逃げた私達は……





旧幕府軍の大鳥圭介という人が率いる部隊と合流した後、





近藤さんの助命を勝海舟達に嘆願するために、奔走していた。
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